けそのつらつら日記

考えたことをつらつらと記すブログ。書評メインの予定。

100分de名著 ハンナ・アーレント 全体主義の起源 仲正昌樹著 日本放送協会・NHK出版協会

【感想】

ドイツ出身の政治哲学者であるハンナ・アーレントの記した「全体主義の起源」について、その骨子を分かりやすく解説したもの。NHKテキストでありTV放送の教科書として利用するのが最良の読了方法ではあるが、本著単体で読んでも大変参考にがなる。

1787年に起こったフランス革命をきっかけに従来強く意識されなかった「国民意識」が芽生えたことを発端として国民国家が発展し、またその一方で「帝国主義」の台頭を全体主義の敷衍の一因として挙げている。そんな二律背反の関係にあるイデオロギーが存立するなかで国家としてのアイデンティティが揺らぎ始めたことで「全体主義」発生の土台が醸成され、そこにヒトラーという存在が現れたことではっきりと「全体主義」という概念が形作られた、としている。

この一連の大局的歴史観に基づいた全体主義発生の要因分析は現代においても色褪せる観点ではなく、むしろ外国人の移民問題・インターネット普及によるボーダーレス化が進む中で個人個人が自身の強いアイデンティティを見出しづらい傾向にあると思われる現代においても、常に「全体主義」的思考の萌芽はいたるところに潜んでいるといっても過言ではないだろう。

以上のような見地から、現代社会の今後を論じるうえで本著は非常に示唆に富んでおり、かつ原著者がドイツ系ユダヤ人というまさしく当時渦中にあったといえる人物であることもあり、内容は迫真に迫ったものとなっている。

本著は原著ではないものの、それがゆえにとっつき易い内容となっているため、万人に推薦できる一冊であるといえる。