けそのつらつら日記

考えたことをつらつらと記すブログ。書評メインの予定。

君たちはどう生きるか 吉野源三郎著 岩波文庫

【概要】

コペル君という一人の少年を主人公とした物語。

【感想】

「物語」と書いたものの、本書はフィクションでもなければ、随筆でもない。あえてジャンル付けするのであれば「哲学書」というのが妥当であろう。

なにより注目すべきは本書の出版された時代背景である。岩波文庫としての第一版は1982年であるが、オリジナルである日本少国民文庫として初めて出版されたのは1935年ごろである。

1920年代~30年代にかけて、世界恐慌を機に欧米列強がブロック経済を展開、そのような「持てる国」に対し、大陸国の干渉を受け不満のくすぶっていた日本や第一次世界大戦に敗れたドイツなどの「持たざる国」が対抗する、という構図となっていた。その過程で「持たざる国」では思想を偏重させる全体主義がまかり通っていた。

そんな日本の時代の流れに反旗を翻したのが本書である。戦争のため視野狭窄となっていた日本の国家体制に疑問を持ち、未来ある子供たちへの啓示として客観的な社会科学的認識について述べており、優しい語り口の中に著者の強い思いが見てとれる一冊である。