けそのつらつら日記

考えたことをつらつらと記すブログ。書評メインの予定。

君たちはどう生きるか 吉野源三郎著 岩波文庫

【概要】

コペル君という一人の少年を主人公とした物語。

【感想】

「物語」と書いたものの、本書はフィクションでもなければ、随筆でもない。あえてジャンル付けするのであれば「哲学書」というのが妥当であろう。

なにより注目すべきは本書の出版された時代背景である。岩波文庫としての第一版は1982年であるが、オリジナルである日本少国民文庫として初めて出版されたのは1935年ごろである。

1920年代~30年代にかけて、世界恐慌を機に欧米列強がブロック経済を展開、そのような「持てる国」に対し、大陸国の干渉を受け不満のくすぶっていた日本や第一次世界大戦に敗れたドイツなどの「持たざる国」が対抗する、という構図となっていた。その過程で「持たざる国」では思想を偏重させる全体主義がまかり通っていた。

そんな日本の時代の流れに反旗を翻したのが本書である。戦争のため視野狭窄となっていた日本の国家体制に疑問を持ち、未来ある子供たちへの啓示として客観的な社会科学的認識について述べており、優しい語り口の中に著者の強い思いが見てとれる一冊である。

日本一やさしい法律の教科書 品川皓亮[著] 佐久間毅[監修] 日本実業出版社

【概要】

六法について易しく解説した本。

【感想】

「法律の面白さを誰でも体感できる入門書をつくりたい」(本著「はじめに」より引用)という著者のメッセージの通りの、平易な法律の指南書。「六法」と聞くだけで何かと身構えてしまいがちだが、この本では個々の条文の詳細な解説や煩雑な判例の解釈についてはほとんど触れず、法律のエッセンスについて丁寧かつコンパクトに解説がなされているため読み易い。法律を勉強しようと考えている人はもちろんのこと、そうでない人でも教養として読む価値のある一冊であると感じた。

 

最近、読書ペース>書評ペースとなってしまって書評が追い付いていない状況ですが、コツコツ更新していきます。

イスラム金融入門 門倉貴史 幻冬舎新書

【概要】

イスラム教圏内の金融業界においては、日本・アメリカ・西欧諸国と異なり、コーランの教えに従い利子取引を禁じた「イスラム金融」が主流となっている。そのイスラム金融商流および国別の状況について詳しく述べたもの。

【感想】

一般的には「金融業界の収益」=「利息収入」とみなすのが日本の常識ではあるが、本書はその常識を覆す一冊である。結局は利息を徴収しない代わりに卸売・リース・VCの形態で儲けを出しているにすぎないというのが実情であるが、かといって決して侮るべきではない。なぜならイスラム教国家の多い中東は原油の産出国や経済成長率の高い国が多いうえに、イスラム教徒のコミュニティーにおける結束が強固であることも影響して、世界の資本がイスラム金融流入する傾向にあるからだ。

本書が記されれたのは2008年であり現在と世界情勢は異なっている面もあるものの、今後もイスラム金融の動向については気になるところである。

「生の短さについて」他二篇 セネカ著 大西英文訳 岩波文庫

【概要・感想】

本書は表題の著作のほかに、「心の平静について」「幸福な生について」の二篇を加えた計三篇から構成されている。著者のセネカ1世紀頃に活躍したギリシャの哲学者の一人であり、徳を最高善とし魂の充溢を求めるストア派哲学の思考法が本書には色濃く出ている。その理想だけにとどまらず、実践をも重んじるセネカが人々に説きたかった内容こそが、表題の「生の短さについて」だ。

どれほど多くの人間が、富や名誉・私利私欲のために時間を費やし自分のために時間を使うことをしないでいることであろう、とセネカは嘆く。そのように生を「浪費」するからこそ生は短くならざるを得ないのだ、と。

本書は今から2000年近くも前に記された書物でありながら、現代社会を強く叱咤するような強い主張が感じられ心に染みる節があった。2度、3度と読む価値のある一冊であると思う。

 

 

あなたの心と体を守る ストレスをためない技術 松島直也 日本実業出版社

【概要】

ストレスは日常生活と切っても切り離せない関係にあり、「ストレスをなくす」のではなくストレスとはどのようなものかを理解したうえで「ストレスとどう向き合うか」を解説している。

【感想】

ストレスに悩まされている方、また新社会人などこれから社会に身を投じる方に読んでほしい一冊。先進国として資本主義社会における鬱屈なストレスをためがちな日本人は、そもそもストレスとは何かを理解できていない人が多い。そのためストレスの原因自体を見逃していたり、ストレスを過度に受けすぎる人も多いとされているため、参考になる方は多いのではなかろうか。自身の体験に沿って読んでみてもストレスへの対処法については大変示唆に富んだ一冊であると感じられた。

「どこまでが事実で、どこまでが解釈?」がキーワードです。詳しくは是非本書を読んでみてください。

「自分は自分でうまくいく」 最強の生き方 アーノルド・ベネット 増田沙奈:訳 興陽社

【どのような本か?】

イギリスを代表する小説家である著者の人生論。

 

【感想】

原題は「How to Make the Best of Life」。初版は1923年であり、相当歴史の古いものであるが、内容はシンプルで読み易い。著者アーノルド・ベネットが56歳の時に記したものであり、「人生の先輩からのアドバイス」として参考になるものであると感じた。

最後に、僕自身が身に染みたと感じた3項目について引用させていただく。

     「悩んでいい場面と悪い場面」:「不安には避けたり解決したりできないものと、自らが動くことで状況を変えられるものの、大きく分けて2種類がある。」

     「無責任な怠け者にならない」:「若者は怠惰なことが多い。それは、自分の生活にあまり責任をもっていないからだ。毎日これといってすることもなく気まぐれに過ごしていくうちに、いつの間にか自分の低俗な欲求をも抑えられなくなる。そしていつまで経っても、頼っているものを批判するという精神状態から抜け出せないのだ。」「怠け者の自分に気づき、それを悔い改めたとき、初めて本物の才能は開花する。」

③「失敗を小さくする2つのこと」:「面倒くさくてやる気が起きないときは、体が疲れているサイン」「勉強が嫌だなと感じたとき、その理由には、学ぶ対象が嫌いなときと、学ぶ方法が間違っているときの2通りがある。」(すべて本著より引用)

寝ながら学べる構造主義  内田樹 文藝春秋

【どのような本か?】

構造主義」という観念・思考法について、それを作り上げてきた哲学者たちの歴史を踏まえた観点から解説した本。

 

【概要】

まず初めに近代哲学における3大巨匠と名高いマルクスフロイトニーチェ3人についての解説、構造主義のいわば「土台作り」がなされた背景を述べている。

そして構造主義の先駆けとなったソシュール言語学の概念の説明に始まり、構造主義の「四銃士」であるフーコー、バルト、レヴィ=ストロースラカンの思考の足跡をたどることで構造主義について体系的に説明している。

 

【感想】

構造主義という難解な概念が新書のボリュームで平易に解説されており、大変読みやすかった。このような哲学的概念についての解説書は往々にして抽象的な言葉のオンパレードで構成されているものが多く、とっつきにくいのが一番の難点であるため、その点においてはとてもありがたい。

構造主義を一言で表すと、「社会活動は人間の自主性に基づいて行われているというよりも、既に出来上がってしまっているシステム・決まりごと・自然法(つまり構造)に大きく影響され行われている」といったところであろうか。

近代哲学史のみならず、現代を支配しているイデオロギーを俯瞰的に理解する上での足がかりとなるような一冊であると思う。

 

 

初めての書評投稿です。

哲学には興味があり書店の店頭にて手に取ったものをふと購入したのですが、初版が2002年だということに驚きました。

感想・指摘・意見等々ございましたらご教示いただけると幸いです。